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4回

伝統工業の世界進出
新たな市場に活路求める水引

 産業活動を通じて地域外から獲得する金銭「外貨」(本連載では外貨をこのうように位置づけています)を増やすことが、南信州経済の最大課題とされる。経済のグローバル化が進む現代社会にあっては、この南信州地方でも国外から本当の意味での外貨を獲得するケースが増えている。地方から世界へ。飯田市鼎名古熊の神明堂(宮川佳久社長)は国内市場の衰退を受けて、海外に伝統工業「水引」の販路を求めた。ニューヨークのショップに商品を並ばせるまでに至った同社の歩みを追い、自立へのキーワードを探る。
【佐々木崇雅】





 全国シェアの7割を占めるといわれる南信州地方の伝統工業「水引」。儀礼の簡素化や多様化、世代の交代、生活様式の変化などに伴う販路の縮小で、各社とも新たな針路を模索している。

 創業100余年を誇る神明堂もその一つ。各社に先駆けて立ち上げた国際事業部が中心となって、海外進出の道を模索。ことし9月から米国での本格的な販売に乗り出す。

 同社が海外の市場に目を向けたのは02年。各国で市場開拓の仕事に従事してきた諏訪部輝夫さん(現国際事業担当常務)を雇い入れ、ゼロからの国際戦略に着手した。

 最初に行ったのは、ターゲットの絞り込み。ハンドクラフトの大きなシェアを持ち、嗜好品的な水引も十分拡がる可能性を持つ米国を選んだ。何より、米国で成功すれば全世界に受け入れられると判断したからだ。

 03年1月、諏訪部さんはデザイン室のアーチスト関島権三さんと共に米国へ。ロサンゼルスのギフトショーを皮切りに、過熱するハンドクラフト業界の売り込み合戦の現場に足を踏み入れた。

 「視察ではあったが、目的は水引が受け入れられるかどうかを確かめるための実質売り込みだった」(諏訪部さん)。各社のブースをめぐり、関島さんがデザインしたサンプルを諏訪部さんが出展商品に添えてプレゼントすると、瞬く間に大きな反響を得ることができた。海外進出への第1関門をクリアした瞬間だった。

 日本に戻ると、米国から持ち帰った多くの情報を分析し、“受ける”商品開発に取り組んだ。「日本の水引をそのまま販売しても売れない。形を変え、どう米国文化を入れ込んでいくかが最大の課題だった」(諏訪部さん)。米国人の志向、ライフスタイルに沿ったデザインを考案するとともに、「グリーティングカードにつけるアクセント」「招待状のデザインの一端」「ギフトボックスに付けるリボン」の3側面からアプローチすることを決めた。

 同年3月には、アパレル・ファッション関連の日系企業ミラデザイン社とパートナーシップマネジメント契約を結び、市場攻略法の本格的な検討を開始。一方で渡米を繰り返し、実質的な商談を進めた。



 一連の準備が整ったことし5月、ニューヨークで開かれる世界最大規模の文具関連展示会「NSS」に出展した。事実上の水引の世界デビュー。「アピールは効果的に」の鉄則どおり、立ち並ぶブースのなかで最も明るく、おしゃれに演出した。

 「次から次へと訪れるバイヤーとの商談を通して、感動が胸にこみ上げた」(諏訪部さん)。予想を上回る注目を受け、最初の渡米で得た自信は、確信に変わった。

 同社はことし9月から、本格的な販売に乗り出す。3年後をめどに年商1億円に乗せたい意向で、欧州、豪州への進出も計画中という。

 「零細企業であっても、正確にターゲットを絞り、順序を踏んで進めれば、世界で戦える」(諏訪部さん)。同社の取り組みを南信州経済に置き換えてみると、自立に向けたいくつかのヒントが見えてくる。

 正確なターゲットの絞り込み、徹底した市場調査、マーケットの情報を活かした商品づくり、効果的な商品アピール、そして徹底したオーダリーマケティングに基く販路構築。経済戦略の“常識”ではあるが、地域経済を考えるうえでも意義深い。

 加えて、宮川社長は「立ち止まらないこと」の大切さを強調する。「新しい経済戦略は下りのエスカレーターを上るようなもの。“行ける”と判断したら、一歩も立ち止まってはならない。止まれば目標から離されるだけ」。

 米国進出を足がかりに、新たな展開を図りたいとする同社。宮川社長は「同業他社との協力体制を構築し、ともにこの“飯田水引”の販路を広げていきたい」と話している。世界への挑戦は始まったばかりだ。


製作・著作:南信州新聞社