 |
「やぁ、バスでの長旅はたいくつじゃなかったかね」 おじいちゃんはムギワラ帽子をかぶって、夏の草花が元気よく伸びた庭で、ぼくと母さんを迎えてくれた。 「ごぶさたしておりました」 母さんは荷物を下に置いて、おじいちゃんにあいさつした。 「おかげさまで、こちらの音楽学校に勤めが決まりました。本当に、何とお礼を言ったら良いか…」 「いやいや、お前さんたちこそ、住み慣れた町を引き払って、よくこの家に来る決心をしてくれた。ここはアレが生まれた家だ。なんの気がねもいらんからなあ。さあ、中へ入った、入った」
|
おじいちゃんは母さんの後ろにいるぼくを見ると、目を細めて笑った。ほおにエクボができるところが、死んだ父さんそっくりだ。 「元気でいたか、ぼうず」 おじいちゃんの顔をぼんやり見ていたぼくは、あわてて帽子を脱いでうなずいた。
木製の大きな机の上でコーヒー沸かしが音を立てている。 「アレの葬式以来、何やかやと忙しかったろうから、まずはゆっくりと骨をやすめることだ」 おじいちゃんはコーヒーを二つのカップについで、ぼくには冷たいサイダーをくれた。 |
 |
 | |