>>>戻る
小池きゑ子文集『こもれび』 最新刊

A5判並製本230ページ、定価2000円(税込み)

松下 智 編 南信州新聞社出版局刊行


柴茶の歴史に伊那谷のこころを探る

阿南町出身の松下智さん『伊那谷の柴茶』発刊

 本紙に連載中の松下智さんの『伊那谷の柴茶(しばちゃ)』がこのほど単行本として出版された。
 日本茶の研究者として知られる元愛知大学教授で、社団法人豊茗会会長の松下さんが、子供の頃から耳にしていたものの、なにげなく聞き過ごしていた「柴茶」に、伊那谷と日本茶をめぐる壮大なドラマを発見したのは、つい数年前のこと。以来、出身地の阿南町をベースに伊那谷の歴史と慣習の踏査を重ね、この3月からそのエッセンスを本紙に分載している。
 松下さんは「その伊那谷には、伝統的慣習ともいえる生活習俗があり、人が訪ねると誰にでも柴茶でのもてなしが、日常茶飯事時行われている。/そのつど覇権は目まぐるしく変わるが、そこに住む人びとには一貫して「柴茶」の心が引き継がれており、心豊かな生活があった。それは大鑑禅師をはじめとして、雪岫瑞秀、そして白穏禅師等三大和尚を中心とした中世から近世にかけて多数の名僧の活躍があり、日本的禅宗の精神が受け継がれていたものと見える」という。そして「柴茶そのものが、想像をはるかに越えて、伊那谷は勿論のこと、日本の茶業から、日本人の生活文化にまで及んでおり、簡単にかたづくことではないことに気づ」くに至って、「伊那谷に暮らす人々に何げなく、日常茶飯に飲まれている柴茶には、日本文化そして人の心が活きているわけで、柴茶そのもの意義は計り知れない」ことを、もっと多くの人に知ってほしいと、本書の執筆を思い立ったという。
 本書は、そうした伊那谷の歴史と喫茶の習俗を、日本茶のルーツに遡って再検証している。地域の文化や歴史を見直す多くの示唆を含んだ一冊である。
 本紙に『伊那谷の柴茶』が連載されて間もない頃、訪れた取材先でたまたまお茶に呼ばれた。そのお宅の奥さんが「柴茶ですが、どうぞ」とお茶を出してくださった。やさしい言葉の響きはそのまま客をもてなす伊那谷の心に通じる。柴茶が忘れられ、その心が失われていくのを、何とかしたいという著者の心が紙背から伝わってくる。
 本書はA5判230ページ、定価2000円、南信州新聞社から出版された。最寄りの書店でぜひ手に取ってほしい。(嶋)